世界最大の資産運用会社BlackRockが公開するブラックロックのインサイトより”2025 MIDYEAR GLOBAL OUTLOOK (2025.7.16公開)” の内容を読み解き、投資戦略を探る。
要点
- 投資環境は、米国の急激な政策転換と不確実性の高まりで世界の様相が一変している
- しかしながら、ブラックロックはリスク資産と米国株式に強気の見通しを維持する
- AIなどのメガフォースが持続的リターンを生み出すための長期的な下支えになる
- マクロ要因による下支えがないために世界経済の方向性がわからないため短期投資戦略を重視する
- 2022年から2030年にかけて設備投資はエネルギー関連で1.3倍、AI関連で4倍を予想
- 地政学的分断を背景に欧州は改めて安全保障やレジリエンス、競争力に政策と資金を振り向けている
- ブラックロックは防衛、インフラ、金融セクターに投資機会があるとみている(ここではおそらく欧州に限る)
- ブラックロックはAIテーマへのエクスポージャーを獲得するため、テックセクター全体のオーバーウェイトを維持している、特に米国株式のオーバーウェイトとインフラを選考
- AIは公益事業会社に依存しており、データセンターが電力需要を生み出している
- 世界金融システムが変化しても米ドル優位性は早晩変わることはないと思われる
- インフラファンドの運用資産額は現在1兆ドルを上回っており、各国地域全体でプライベート・インフラ資産は2028年までに2兆ドルを超える予測
- ブラックロックは、インフラの安定したキャッシュフローをインフレ懸念からポートフォリオの安定性をはかるツールと捉えている
短期的見通し
ブラックロックの各資産クラスの6~12か月の短期的見通しは以下のようになっている。
オーバーウェイト
- 米国株式
- 日本株式
- 米国短期国債
- 米国エージェンシーMBS
- 短期投資適格社債
中立
- 欧州株式
- 英国株式
- 新興国株式
- 中国株式
- グローバル物価連動債
- 欧州国債
- 英国国債
- 中国国債
- グローバル・ハイイールド債
- アジア・クレジット
- 新興国債権(現地通貨建て)
アンダーウェイト
- 米国長期国債
- 日本国債
- 長期投資適格社債
- 新興国債権(米ドル建て)
考察
ブラックロックは、昨年2024末からAI関連へ投資リソースを振ることを特に強調しているように伺える。AI関連といっても、チップそのものやLLMのような知的財産にとどまらず、公益事業まで幅広く構える格好だ。AIデータセンターは従来のデータセンターに対して100~300倍の電力消費が見込まれ、その需要の影響力は多大なものと思われる。
米国トランプ大統領が今年2025年に、温暖化対策の国際的枠組みのパリ協定から離脱する内容の大統領令に著名した。このとき「(化石燃料を)掘りまくれ」と言ったことが記憶に新しい。
日本経済新聞「トランプ米政権、石炭「掘りまくれ」 採掘地開放でAI電力需要に対応」2025.9.30
気候変動を軽視するトランプ政権の発足で潮目が変わった。トランプ氏は4月には石炭産業を復活させる大統領令に署名した。石炭のことを「ビューティフル・クリーン・コール(美しくきれいな石炭)」と呼び開発を増やすとした。
背景にはAI普及によるデータセンターでの電力需要増がある。米ローレンス・バークレー国立研究所は、データセンターの電力消費量は23年の176テラ(テラは1兆)ワット時から28年には3倍に増えると予測する。
電源を賄うために米政府は老朽化した石炭火力を退場させずに延命させながら電力の確保に動く。8月には閉鎖する計画だったミシガン州の石炭火力発電所に稼働の延長指示を出した。
米国は政府主導でAIデータセンター向けに電力需要に対応する。どちらにしても米国はインフレがひどく、エネルギー価格が上がると物価も上がってしまう懸念もあり、タイミング的にもとても良かった。
また、国連の演説でもトランプ大統領は、太陽光発電などの再生可能エネルギー政策が、製造コストが安く、部品の大部分を供給している中国を利するものだと主張した(ニューヨークタイムズ2024.6.26)。米国の方針として、環境対策というものはこのメガフォースを前にしてみれば、まったくと言っていいほど邪魔ものなのだろう。
それに関係あるかわからないが、日本も他人事ではなく、三菱商事と中部電力が計画していた洋上風力発電から撤退2025.8.30した。理由は採算が合わなくなったからとのことだが、気候変動対策および脱炭素というのはとにかく金がかかるようだ。
日本の気候変動対策の発電では、ペロブスカイト太陽電池が有力視されている。日本の経済産業省は脱炭素電源投資の重要として、当設備を官民連携で低コストで大規模量産する方向性で向かっている。背景としては、国際的な立場(パリ協定)もあるが、どちらかというと輸入する化石燃料ベースの電力は経済面・国家安全保障面で問題視しているところにある。
太陽電池については、技術面含めて別記事でまとめたい。
電力関連から話を進めたが、AIのコア技術となっているチップはやはりNVIDIAが世界的シェアをとっている。このAI技術の主導者とも言えるNVIDIAだが、ファンCEOは米国は人工知能開発において中国に全体的に「大きく先行していない」といった。
Investing.com「NvidiaのCEOファン氏、米国はAI開発で中国に「大きく先行していない」と発言」2025.10.8
CEOジェンセン・ファン氏は水曜日のCNBCインタビューで、米国は人工知能開発において中国に全体的に「大きく先行していない」と述べた。
ファン氏はH-1Bビザ政策を支持し、これにより米国が最高の人材を引き寄せることができると述べた。「移民はアメリカンドリームの基盤である」とCEOはインタビューで語った。
この技術企業の幹部は、Nvidiaのブラックウェルチップへの需要が「非常に非常に高い」と報告し、同社が「常にスタートアップへの投資先を探している」と述べた。ファン氏はNvidiaの目標がAIインフラの成功を支援し、エコシステムの成長を助けることであると強調した。
投資について議論する中で、ファン氏は「唯一の後悔」はイーロン・マスク氏のxAIにもっと資金を提供しなかったこと、そしてOpenAIにもっと早く投資しなかったことだと明かした。彼はOpenAIの収益が指数関数的に成長していると述べた。
ここでいう開発というのは計算モデルのこともそうだが、おそらくもっとトータルの話だろうと思われる。要するにチップ本体とその周辺、基盤、インフラも含めるということだ。主要企業はファーウェイ、アリババ、バイドゥ、製造はSMICが請け負うのだろうか。
ロイター「中国半導体メーカー、26年に生産量拡大へ 脱エヌビディア目指す」2025.8.28
同紙が関係筋の話として報じたところによると、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)(HWT.UL)は、AI向けチップ専用工場での年内の生産開始を目指しており、26年にはさらに2つの施設の稼働を予定しているという。
建設予定の3つの工場の総生産量は、中国の半導体受託生産(ファウンドリー)大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)の同様のラインの現在の生産能力を上回る可能性があるという。
また、SMICは来年、7ナノメートルチップの製造能力を倍増させる計画だという。
中国国内では7nmプロセスが主要で、AIチップもそのくらいのプロセスで製造しているものと思われる。最先端プロセスはないが統合的な技術で補い、先端AI技術に匹敵する出力を得る力がある。だから、ファンCEOも大きく先行していないと評価しているのだろう。
中国産AIではディープシークでも騒がれたが、AI技術というのは必ずしも最先端の設備が必要ではないのだろう。どれだけ効率よく情報を整理し、出力を得られる構造をつくれるかが問題なのであって、省電力だとか計算メモリが多く積めるだとか動作クロックが早いだとか、そういうところではないのだと思われる。
中国当局がNVIDIA製半導体の輸入を規制し始めた2025.10.10ことから、中国は自国のAIチップに相当の自信があるものと思わせる。が、国内経済回帰を狙ってのことなのか、あるいは、米国にサプライチェーンをつくりたくないだけなのか意図はつかめない。
まとめ
投資環境2025.10.11としてはAI関連セクターはおよそオーバーウェイトで一致の見解。だが、半導体本体のほうはNVIDIAのCEOファンが言うように中国に大きく先行していない、また、当の中国が輸入規制をするほど、先端チップを使う優位性というのがあまりないと考える。
したがって、先端半導体かつAIに重きを置いている企業はオーバーウェイトにならない。個別にあげるとNVIDIAとTSMCは中立、装置メーカーのASMLも中立寄りになってくる。
電力需要は先端チップだろうとそれなりの消費拡大が見込まれるため、こちらは本命ともいえるオーバーウェイト。米国に限らず日本国内もデータセンターは直近で各所にできつつあり、まさに電力需要が逼迫している。日本の電力会社は軒並みオーバーウェイト、また、エネルギー開発関連の企業も総じて推していきたい。
日本のデータセンターの中核は東京、大阪、福岡、そして北海道で、その他各所に拠点を設ける草案2024.9.20がある。つまりその中核では電力需要があり、また通信ケーブル(光)の需要が高くなることが見込まれる。この草案自体は2030年を見据えているためかなり長期になることには注意したい。

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